SadoのSM小説 調教師集団

その六
大学講師のフェミニストが堕ちる   
 この物語はフィックションであり、実在の人物機関とはなんらかかわりありません。

 二〇一八年夏至上元
 (これは平気法による二十四節気です)
 池袋を毎時ゼロ分に発車した武州ライナーは24分無停車でJR武州線と並ぶ武州駅に着く。武州ライナーはそのまま武州寄居まで行く。
 武州駅から都市モノレールが二つのニューシティを結んでいる。
 九年前に開通した時は単線で次の田面沢駅で交換していた。僅かな投資で街の流れを変えたモノレールである。
 本宿の街の発展に伴い五年前に複線になった。
 武州鉄道の田面沢駅を過ぎて別の私鉄に沿って右に折れて元本宿駅に止まる。眼下の私鉄はここが終点である。
 モノレールはそのまま無停車で歴史の街の上空を流れて伊佐沼まで行く。
 其処は五十階建ての高層建物が六棟。病院、学校、ショッピングセンターを内包して上は家族が住む高層マンションである。
 武州駅から反対方向は一駅で終点本宿となる。
 此処は独身者の街である。工場、オフィス、歓楽街型大型ショッピングモールが入る。五十階建て高層建築が二列二十八棟から成っていた。
 モノレールの本宿終点に隣接したミッドタウン一号棟。これを先頭に元本宿を発車した私鉄の次の駅南武州を跨いでその先まで伸びている。
 モノレールの終点駅本宿。ミッドタウンと僅かな道一本を挟んだ反対側に五階建ての建物がある。
 この五階は秘密のお座敷に成っている。
 その言問の間である。
 其処には日本の政治家、警察関係幹部、武州市長、企業オーナーが集まっていた。
 温泉の宴会場でも有り得ない宴会である。
 配膳しているコンパニオンは全裸にエプロン一枚。席に付いているコンパニオンは全裸でお客に躰を弄られている。
 ここまでならスーパーコンパニオンと同じと言われるかもしれない。
 座敷の床柱にハードコンパニオンが一人。ブルーシートを敷いた畳にお尻を着き両脚は斜め上に引っ張られている。
 脚首を縛った縄が天井から吊るしたフックに接続されていて股間を大開にしていた。
 腕と胸部は高手小手に縛られ後ろの柱に固定されている。
 女の躰は船の碇のように床柱に磔にされて女の部分は丸出しである。
 高手小手の縛りで乳房は上下の縄に挟まれ乳首は強く突き出している。
 女は上野愛菜と言う。
 客が一人立って鞭を持っている。一本鞭である。先端に長方形の革を二つ折りにしたチップが付いている。
 チェップの長さは五センチ位である。
 狙っているのは?き出しになった股間に閉じ合わせた粘膜。左右の丘の間に細く縦一文字に小豆色の顔を覗かせている。
 上野愛菜の表情は怯えきっていた。
 鞭を持っているのは武州市長安曇幸雄である。
 上野愛菜は顔を横に逸らし目を瞑って身構える。
 鞭はきっちり上野愛菜の女の部分を叩く。
 「ぐうううーーーーーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜は顔を絞るように軋ませ大口で甲高い悲鳴を絞り上げる。
 武州市長は武州警察の署長長妻警視正に鞭を渡す。
 長妻警視正は既に蝋燭に点火して芯の周りに溶けた蝋涙を溜めていた。四本用意している。
 両手に一本ずつ持つ。乳房に近付ける。
 「いやあーーーーーーーーーーー」
 瞬時に蝋涙を被ると悟った上野愛菜は驚愕の悲鳴を上げた。
 長妻警視正は容赦なく乳房にべっとり掛けてしまう。
 「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 甲高い悲鳴が宴会場に轟き渡る。
 次の二本を持つ。
 「ああーーーーーーーーー。やめてーーーーーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜は恐怖の形相で叫ぶ。
 また容赦なく女の部分に流す。
 「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 最後の一本は左の太腿に流す。
 「あーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜の白い艶めいた肌は下着代わりのようにべっちゃり蝋涙を被っていた。
 長妻警視正はドライヤーを冷風にして蝋涙を乾かす。
 上野愛菜に客と言う認識は既に外れている。嫌悪の篭った恐怖の表情で目の前の長妻警視正を見ていた。
 長妻警視正は指先で乳房の蝋涙の固まり具合を確認する。そしてスパンキングを手にした。
 一本鞭と違って平たい革の面で叩く。柔肌を叩かれると相当に痛い。
 「ぐうーーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜は痛みに顔を絞るように眉間に皺を寄せる。顔を仰け反らせて悲鳴を搾り出す。
 長妻警視正は嬉々として乳房を卓球の弾を打つように叩く。
 「ぐううーーーーーーーーーーーーーー」
 乳房の蝋涙は一気に割れた。乳首の形ごと落ちる。残骸は細かくなって部分的に残っていた。これをはたくように落とす。
 「ぐわあーーーーーー」
 内腿にもべったり被っている。この部分も乳房ほどではないが叩かれると相当に痛い。
 「ぐうーー」
 長妻警視正はある程度叩いて蝋涙を落としたら上野愛菜の躰に残った蝋涙の残骸を手で払う。
 乳房の感触を手で味わいながら擦るように落としてゆく。
 最後に股間に被せた蝋涙が女の部分を包んでいる。さらに陰毛の下にもびっしり流れていた。
 長妻警視正は安曇市長が使っていた一本鞭に持ち替える。
 「ああーー」
 上野愛菜は怯えの表情で悲鳴を漏らす。
 長妻警視正は容赦なく女の部分に被った蝋涙を叩く。
 「ぐうわわーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜の顔の表情を破裂させた悲鳴と共に一発で割れて堕ちる。
 長妻警視正は僅かに残った残骸を狙って?き出しになった局部を叩く。
 「ぐごおーーーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜の躰は震撼し縄を揺さぶって痛みに暴れる。
 「あはん。あっはん。あはん。はあ。はあ。はあ」
 恐怖に慄く表情で荒い息遣いを続けた。
 長妻警視正は女の部分に残った蝋涙の粕を指先で落とす。陰毛の下の蝋涙は簡単には落ちない。
 「そっちは湯に浸けないと無理だ」
 衆議院議員の平佐和周一郎である。
 長妻警視正は緊縛師を振り向く。
 縛る作業は客ではできない。緊縛師の小湊勇一が座敷に同行している。
 「一回解きますか」
 小湊雄一がスポンサーのTCC社長前原に確認を取る。
 「いいよ。最後まで回ってから風呂に浸けて剃毛もしよう」
 平佐和が決めてしまう。
 「剃毛は次回分のご予約もお願いできますか」
 また小港雄一が前原社長に確認する。
 「いいですよ。来週も」
 前原社長は二つ返事で納得する。
 女将が蛞蝓をボールに入れて運んで来た。このお座敷では定番に成りつつある遊びである。
 クスコ、ロングスプーン、粗塩が添えられている。
 「養殖した蛞蝓でございます」
 下水などから上がって来る天然物ではないと能書きを述べてゆく。
 女将は青木典子と言う。今年で五十七に成る。
 板長は女将の主人である。一流ホテルの総料理長を定年退職して今は此処を手伝っている。
 女将は不倫の愛人との共同事業に失敗した。やくざに数千万の借金を負ってしまう。
 この街の実質オーナー保木間貴明から此処を任された。その稼ぎで毎月数十万の返済を完済したばかりである。
 不倫相手は典子に借金を残して逃走した。行方はまったく解らない。
 次は国民党から分裂して新国民党になった菱沼代議士の順番である。
 菱沼は上野愛菜の膣にクスコを挿入する。
 「えーー」
 上野愛菜は神経質そうにそれを見ている。
 蛞蝓の入ったボウルを見せた。
 「いやああーーーーーーーーーーーーーー」
 恐怖の悲鳴を上げてしまう。蛞蝓がクスコで抉じ開けられた自分の娘に入れられると瞬時に想定が付く。
 菱沼はロングスプーンで蛞蝓を掬う。
 「いやあーー。いやよーー。やめてーーーーーーー。やめてーーーーーーー」
 上野愛菜はヒステリックに叫び続ける。
 クスコは態と横向きに挿入されていた。クスコの金属が割れて三角に下部の緋色の膣壁が覗いている。
 菱沼はロングスプーンに載った蛞蝓を緋色の粘膜に近付けた。
 「あーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 甲高い悲鳴になる。
 容赦なく膣壁に載せた。
 「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 いっそう甲高い悲鳴は高くなる。細面の顔に大きな目が吊り上がって恐怖の表情が破裂する。
 「いやあーーーーーーーーーー。いやあーーーーーーーーーー。いやあーーーーーーーーーー」
 甲高い悲鳴は止まらない。
 菱沼はロングスプーンに粗塩をしゃくる。それを蛞蝓に掛ける。
 「ああーー。ああーー。ああーー。ああーー」
 上野愛菜の躰はぶるぶる震える。
 蛞蝓は瞬時に萎む。それをピンセットで取り出す。
 眼前に翳す。
 「いやあーーーーーーーーーーーーーーー。あーーーーーーーーーーーーーーーー。あーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜は狂ったように叫ぶ。
 平佐和の合図で小湊雄一が一旦脚の縄から解き始める。
 小湊雄一が座敷に続いた浴室に連れて行く。上野愛菜は湯の中で狂ったように膣に指を突っ込んで洗う。涙をぽろぽろ流して泣き続けた。
 やがて小港雄一が抱き抱えてお座敷のブルーシートに寝かす。剃毛の儀式になる。
 上野愛菜は今日の仕事が初日である。
 つい一月前は極東経済大学の講師であった。調教師集団の手でいまの境遇に堕とされた。もっとも辛うじて講師は続けている。
 ここで調教師集団について解説する。
 現代は女性知識層の言い分のままに女性を圧倒的に保護し過ぎる法律下である。
 迷惑防止条例、ストーカー禁止法は江戸時代の切り捨て御免、生類哀れみの令と変わらない。冤罪を大量生産する史上の悪法と言える。
 それを悪用する現代の身勝手な女性を制裁してお仕置き、かつ風俗、AVの仕事に就かせて経済効果に貢献する。そういう集団である。
 法律が女性の言い成りに従ってしまっている現代において女性は会社の中で些細な事で痴漢、セクハラ、パワハラと文句をつける。
 杓子定規に女性の言い分通りでは男性は恐ろしくて会社に居られない。調教師集団はそういう男性の依頼を実行する。
 標的として依頼を受けるのは女性だけである。
 風俗関係者や本当に弱い女性は対象にしない。法律的女性有利を利用して男性、企業を抑圧するインテリ女性だけである。
 調教師集団の団員は保木間の他十一名。弁護士、外科医、精神科医、印刷屋、警察官、組関係者もいる。
 そして調教師集団がこの街の実質管理者である。
 この街の実質オーナーの保木間貴明は今年で六十二歳になる。建前はフリーのコンサルタントとなっている。
 R国の本社に滞在する名目上のオーナーから依頼を受けて、日本に存在する系列企業の全権を任されている建前である。
 ここの土地を買い取った本社はR国に在るがこれも僅かな事務所しかない。
 代表は名目上のオーナー経営者で日本から赴任していた。言い方を変えれば代表取締役という名の使用人である。
 
 上野愛菜の依頼人は極東経済大学の理事長である。
 極東経済大学では内村理事によるセクハラ問題がマスコミにより加熱ヒートしていた。
 上野愛菜は教職員組合の委員であった。
 内村理事の問題で大学側がなかなか事態を認めて動かない。それで教職員組合が理事長、学長の辞任を求めたのである。
 この運動に組合委員長を突き上げて行動を促進した上野愛菜が怒りの対象となった。
 上野愛菜らはトップダウン型の敏速だが一方的な大学経営に反旗を翻す。
 内村理事のセクハラは歴然であった。
 大学生は既に成人している。合意の関係と言えば言えない事も無い。
 内村理事は文化人類学の教授でもある。
 それは補講のゼミで行われた。
 民族学エスノロジーの調査である。山形県の奥地の村に入る。村の年配者の家を一軒ずつ訪ねて古くからの習慣、生活を調査する。
 民俗学にはフォークロアもある。こちらは民間伝承学で民族学エスノロジーとはやや内容が違う。
 合宿所に民宿を借り切っていた。
 毎夜飲み会も行われる。男女かなり乱れていた。
 参加者は理事である内村教授及びOBそして学生である。
 卒業に関わる単位取得の補講となる。
 そのゼミの数日後一人の女子学生が自殺した。
 いったいゼミで何が行われていたか。マスコミが執拗に徐々に内容を剥がしてゆく。その内容は大学のゼミとは到底言えるものではなかった。
 だが大学側は伝統的なゼミであり代々のOBも参加して戦前から続いている。セクハラなどではない由緒正しき伝統であると説明した。
 OBはマスコミの取材にこぞって問題は無いと主張する。その中に女性もいた。私達もやって来た事と主張する。
 それでも問題が明るみに出たと見て現役の学生らは徐々に内容を語り始める。
 それは数日に渡ってワイドショーのメインのネタに成った。
 肝試しが行われた事がまず表面に出る。
 これは部落の奥にある古寺の広い境内で行われた。寺の正面からスタートする。予めチェックポイントに札が掛けられていた。全部で十二箇所になる。
 指定されたコースを地図に沿って回ってこの札を全て持ってくればOKである。
 鬱蒼とした森の中、墓地の中の細い道を進む。
 OBらが幽霊の役もする。
 完了出来ないとお仕置きの儀式になる。
 この儀式が縛られてSM紛いの拷問と報じられた。
 真相は闇の中。内村理事は辞任会見で全てを否定する。
 だが学生の中には内村理事が玩具にしたい女子学生の時は幽霊が強化されたと証言していた。
 だがSM紛いの拷問については現役の学生も真相は語らない。語れない事情もあった。
 
 調教師集団は保木間の部屋に集まってこの依頼について会議を行った。
 ミッドタウン最上階の3LDKだが屋上スペースが付いている。一段下の屋上で専用の大型バルコニーである。
 一面太陽光発電の屋根を張り竹垣で囲っていた。檜の浴槽が二つL字に置かれて大型モニターもある。
 生ビールのサーバーもあり海鮮類のつまみが氷を張った桶に並べられている。
 二重底の桶に載せた二重ガラスのジョッキで生ビールを飲む。
 男性は十一人。紅一点は北嶋真紀子。北嶋コンツェルン社長である。
 全員が全裸で真紀子もバスタオルを巻いたりしてはいない。
 全員真紀子と躰の関係がある。遊ばれているのではない。真紀子の方が遊んでいる。
 調教師集団に入るに真紀子が躰で審査した。
 今回の依頼には多少迷う部分もある。
 上野愛菜らがトップダウンに反対と言う。だが理事長の言い分は組合で実質意見を通すのは上野愛菜であると言いたい。
 この女の方針に合うように改革して一介の講師が伸し上がろうとしている。委員長はこの女の傀儡であると主張する。
 真紀子の意見が一同を制した。標的が経済発展と風俗売春を抑制するフェミニストである以上この依頼は実行すべきと真紀子は主張する。
 これには調教師集団の誰も反論しない。
 
 上野愛菜はお座敷が終わってミッドタウン五号棟に寮として貰った部屋に戻った。部屋に着いて玄関を入って手前の三条間に倒れ込んでしまう。
 そのまま精神的疲れ、肉体的疲れ、そしてあまりにも衝撃なお座敷の内容に動けなくなっていた。
 恐ろしい境遇に堕ちてしまった。這い上がるに何年掛るか解らない。
 本来なら些細な自転車事故の筈である。
 間違いなく自分の正面からドローンが来た。それを避けてハンドルを切った。
 それが前から早歩きで来る通行人に当ってしまったのである。
 自転車はガードレールに当って止まった。だが通行人は衝撃でガードレールを乗り越えて川に落ちてしまう。
 川底の少し高くなった水の無いコンクリート部分。そこに頭から落ちてしまったのである。
 目撃者は通行人が二人居た。
 救急車を呼んだが死亡が確認される。過失致死でそのまま逮捕となった。
 通行人は二人ともドローンは見てないと証言した。
 国選弁護人が付く。野村未来也弁護士である。
 ドローンの事は主張しない。素直によそ見を認めて悪くても執行猶予に持ち込むよう勧められた。禁固刑になれば大学はやめなければならない。
 まず釈放される事が重要となる。
 被害者が告訴をして検察官が起訴をしてしまうことを避けるのが懸命である。
 だが被害者側も勤め先が弁護士を立ててきた。
 相手の弁護士は館山と言う。
 死亡したのはその会社にとって重要な技術者だった。この人物の死によって依頼先の仕事が果たせなくなってしまったと主張する。
 取引先もこの依頼が果たされなければ莫大な損害を受ける。
 これを自社で賠償したらこの技術者の居た会社は倒産する。上野愛菜に保証を要求した。
 上野愛菜が賠償に応じなければ示談は無い。
 ドローンが飛んできたと主張した。それが目撃者二人の証言と食い違い悪質な言い訳とみなされる。
 さらに埼玉県の条例自転車保険加入義務に違反していた。
 送検される48時間以内に示談に持ち込むよう野村未来也弁護士は説得する。
 家を売る覚悟を決めてとにかく示談交渉した。館山弁護士は全額弁済を条件にしている。
 館山弁護士、野村未来也弁護士共々できれば減刑、不起訴を確保するよう努力すると言ってくれる。
 在宅起訴で勾留は免れた。
 上野愛菜にはまったく判らないが館山弁護士も野村未来也弁護士も調教師集団の一員である。
 上野愛菜は家を売っても金額は足りなかった。銀行融資は受けられない。町金を渡り歩いた。何処も貸さない。
 レリースローンを詠う杉本金融に行き着いた。
 「融資を行えなくはありませんが、今の収入では」
 担当者から含みのある言葉が返ってきた。
 「どのくらいの収入があれば良いのですか」
 大学の給料は手取りで四十数万になる。他に原稿料の収入などもある。
 「女性ですから高額なアルバイトでもしていれば別ですが。今の収入ではまったく評価はできません」
 絶望的な言葉が返ってくる。それでももう後戻りはできない。
 「高額なアルバイトどこかありますでしょうか」
 遂にここまで堕ちてしまった。
 「いえ。いえ。ご紹介などはできませんよ。働いていらっしゃればそちらの信用は評価いたします。収入によっては金利も15%前後でご融資できます」
 「どのくらいの収入が必要なのですか」
 「現在の収入の他に月額二百万くらいですね」
 「合計二百五十万ですか」
 「そうです」
 担当者は冷ややかに融資対象外という回答である。
 上野愛菜は必死に風俗系求人誌を見て探しまくった。大学を辞めたくはない。断腸の思いでソープ、ピンクサロン、ヘルスなど掛けまくった。
 大学の時間を考えるとソープでも難しい。
 それでも面接に行った。
 全裸の確認を要求された。行き成りである。倒れそうな衝撃だった。
 収入の話も一日置き八時間位は働かなくては成らない。それでは大学に支障をきたす。脱ぐ前に帰る判断をした。
 帰り道に見知らぬ男に呼び止められた。
 「話しついた」
 崩れたタイプの男である。足早に逃げようと動いた。
 「誰から聞いたとは言えないけど。困っているんだよね。良かったら働いて貸して貰えるところ紹介するけど」
 ちょっと怖いが脚を止めて話を聞く。
 男が紹介したところは本宿スカイシティの23階に有った。周りの環境が綺麗なのでやや安心した。
 だが出て来た男は大柄で厳つい。宇佐美伝吉と言った。
 調教師集団の一員ではない。墨田会系大船一家の舎弟頭補佐である。兄貴分の稲垣七郎若頭が調教師集団の一員でそのおこぼれの仕事を貰っていた。
 「総額いくら必要だ」
 単刀直入に聞かれる。杉本金融の担当者のように優しくない。
 「三千二百万です」
 必要な理由を聞かれた。
 「成程。やるしかないね。それで全部か」
 「一部は自宅が売れました」
 「そう。いま住むところは」
 「明け渡すのでアパートを探しています」
 「うん。そっちは寮がある。また入ってもらわねば成らない」
 「どうしてですか」
 「金貸して逃げられては」
 「ああ。はい」
 「躰を見せてもらうよ」
 「ええ」
 ソープでも同じ事を言われた。
 「躰を見なければ一円も出せない。刺青でもあったら評価は一気に下がる。おっぱいの形、大事な部分の形も評価の範囲だ」
 態度は嫌なら帰れと言っている。
 暫く沈黙が支配した。
 どうせこの先脱ぐしかない。意を決した。
 上着を脱ぎカット層も脱ぐ。スラックスも脱いだ。震える手でブラを外す。
 「うん」
 宇佐美は納得の表情である。
 「下も見せてくれ」
 ショーツを脱いで手に丸めて握る。
 「机に座って広げて」
 この男一人である。覚悟を決めて股を開く。
 「その女の部分を広げて」
 宇佐美は坦々と驚愕の指示を出す。
 「えー」
 上野愛菜はうろたえる。意味が解らない。
 「指で閉じた粘膜を開いて。その部分が大事なのだ」
 宇佐美は真顔である。
 仕方無しに震える指先を大陰唇に持ってゆく。
 「それを両側に引っ張って」
 真っ白な頭で言われた通りピンクの部分を広げた。自分でも見たことの無い部分である。
 「うん。いいだろ。AV五本で行けるよ」
 「それはあ」
 それでは大学の講師を続けられない。
 「AVで顔が出てしまったら大学の講師が続けられません」
 「そういうこと。ならば長い期間が掛るよ」
 「はい」
 「お座敷のハードコンパニオンだ。週に一回だが五十万になる。四十万があんたの取り分だ」
 「約二年弱ですか」
 「そうだがハードだよ」
 「はあ」
 「このお座敷だけは絶対にばれないけどな。またあんたも一切他言はだめだ」
 「はい」
 「その前にソープでも客の口コミでいつか学校にばれるよ。それに雑誌に顔出ししないと目標額は到底稼げない」
 昔のソープと違う。順番で本番に付いた客が次に氏名をしてくれるのを待つのでは稼ぎにならない。
 客も当たり外れは好ましくない。雑誌で写真を見て顔は愚か体型まで好みかどうか確認してから来る。顔出し無しでは出勤してもお茶をひく日もある。
 「え、え」
 上野愛菜に恐怖の戦慄が奔る。
 そのあと他言無用の忠告のためビデオを二本見せられた。
 何処か海外の映像。古いフイルムだが遠くない近年である。
 丸い鉄格子の鳥篭を天井の高い小屋にした大きさ。中では女が椅子の上に載せられている。
 腹の部分をベルトで留められていてその両手、両足とも無い。全裸である。自分で動く事はまったくできない。
 アップになるとそれなりに美形で日本人の様に見える。乳房の形もよい。
 太腿の途中で切断された足を自分で閉じる事が出来ないのか女の部分は丸出しである。ドテに黒い固まりは無い。
 檻の外からは観光客らしきが集って見ている。
 スイッチボックスが設えてあり観光客がスイッチを押すと水が飛びだす。その晒し者の女に掛かる仕組みである。
 「この状態で毎日観光客の見世物にされる。自殺する事も自分で体を動かす事さえできない。毎日点滴で栄養補給する。小水は垂れ流しだ」
 上野愛菜は瞬時に口が利けない。
 これ以上の処刑があるだろうか。そうなるなら殺して貰いたいと思う。
 「ここまでは俺に関係ない。既に別の組織が動く。そうなったのが次のビデオだ」
 女が全裸で逆さ吊るしにされていた。
 『埼玉県警生活安全課出水麻里巡査部長』と字幕が出る。
 全身に鞭の痕が奔って無残な状態である。至るところ血が流れたり滲んだり傷も確認された。
 弾丸が太腿に命中する。
 「うわわあーーーーーーーーーーーーーーん。ぐああーーーーーーーーーーーーーー。ああーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 痛みに空中で吊るされた躰を丸めて藻掻いた。一度丸めた胸を逆に仰け反らせ動く限り暴れ捲くる。
 壮絶だが弾丸が命中した割には軽微に見える。それは弾丸でも蝋燭で作った弾丸である。
 「ちくしょうーー。ころせーーーーーーーーーー」
 出水麻里巡査部長は断末魔の叫びを上げる。
 出水麻里巡査部長の眼下は破砕処理機である。
 二台の高所作業車が上昇してゆく。
 その両方から高枝斬りバサミを伸ばして片脚ずつ縄を切る。
 吊るしが一本脚になった。
 「ああーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 出水麻里巡査部長は堕ちる恐怖に叫ぶ。
 最期の縄を切り落す。
 「ああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 出水麻里巡査部長の躰は悲鳴と共に破砕処理機に飲み込まれた。
 その後に大量の動植物性残渣が投入される。
 出水麻里巡査部長は何もしていない。
 水野真由美はハードコンパニオンとして宇佐美の事務所から仕事に出ていた。その水野真由美が電話で事情を打ち明けて相談しただけである。
 それだけでこの街を見張っている裏の組織が動いた。裏の組織は依頼業務で派遣業務ではない。此処で調教師集団から直接の指示は一切受けないで動く。
 一括して交わした依頼条項に基づいて彼らの頭目が判断して命令する。
 処理を行った場所は産業廃棄物処理場である。乾式メタン醗酵と言う処理方法を用いていた。
 処理後はガスと乾燥残渣になる。ガスは発電に使われる。乾燥残渣は家畜の餌と成る。水分は何回かの醗酵で消滅する。
 そのあと何度も動植物性残渣が処理機に投入された。酸性の洗浄液で洗われる。警察の捜査の対象に成ることもなく証拠も出ることはない。
 「もう一度言います。一切宴会で有った事は他言無用です。その時は別の組織が動きます。そう成ってから詫びられても私にもどうすることもできません」
 宇佐美の威圧だけでも充分である。
 「付け加えます。この街のオーナーの代理人でもどうすることもできません。その存在が何処にあるかも知りません。私の所に行き成りこれが送られて来ます」
 上野愛菜の心に恐ろしい戒めがきっちり刻まれた。
 
 上野愛菜にお座敷の翌朝は講義が無い。翌々朝大学に向かった。
 五十階建て高層ビル二十八棟が二列で十四棟連なっている。その間を新都市交通が二十階の空中を走る。これで本宿に出る。
 其処からモノレールで武州駅に向かう。
 JR武州線で下り方面に乗る。
 講義は予定通り行っているが組合活動は事故以来他の同士に任せていた。
 次のお座敷まで生きた心地がしない。
 お金は既に借りてしまっている。住居も強制ながら寮である。これを出られたとしても家賃は痛い。
 『同じ内容でもAVとお座敷は違う。客が責めるのと男優が撮影で行うのでは雲泥の違いだ』
 宇佐美の言葉が脳裏を離れない。
 食事も殆ど喉を通らない。食べても下痢で流れてしまう。
 講義が終わった後で委員長が近付いてきた。
 「事故の方はどうなりました」
 「在宅起訴です。執行猶予で済むと思います」
 確定ではないが弁護士二人を信じてそう答える。
 「どうやら理事長も学長も辞任はしない。報復人事が行われるようだ」
 委員長は暗い顔である。
 「そうですか」
 上野愛菜は随分闘った心算である。報復と聞いて目の前は真っ暗になる。
 「マスコミがあれだけ騒いでも効果無しですね」
 「そうだよ」
 委員長は誰が強行したと恨み顔である。
 署名を集めたが大方が無記名にしている。無記名でも怖いと言う者も居て全体の六割にしか成らなかった。
 マスコミも理事長の会見を求める。コメンテーターも直接の責任は無いものを辞任すべきとまでは報道しない。
 「ひょっとして頸ですか」
 上野愛菜もそこまではできないと思っている。
 「頸はさすがに無いと思うが岩見沢キャンパスに転勤とかはありそうだ」
 上野愛菜は一瞬怯えが奔った。そうなると借金を返すには辞めなければならない。
 「まあ。報復人事ともう一度騒ぐしかないが」
 委員長は自信の無い態度である。
 
 その翌日マスコミのインタビューで署名が六割だったこと。報復人事で地方に飛ばそうとしていること。学長がゼミのセクハラ行為を認めないことを批判した。
 だが報道はアメリカと北朝鮮の首脳会談で塗り尽くされる状況である。
 さらに資産家麻薬殺人が大ニュースに成っていた。
 そこに大阪で大地震が突発する。
 内村教授が理事他全てを辞任した。概ね幕引きになりマスコミ報道は下火になる。インタビュー内容も大方凝縮された。
 異動に成るとしても翌年の四月。まだ九ヶ月は有る。だがそこまでに完済は不可能と思う。
 他の大学に移るしかないか。それもなかなか難しい。兼任講師をやっている大学に相談しかないが下手をすればそこも理事長の圧力が掛かる。
 
 本宿ミッドタウン最上階。保木間の部屋である。
 本日はリビングで酒を酌み交わす。
 「起訴猶予にはできなかったな」
 「そうです。実刑にしなければ問題ないでしょう」
 「その危険は無いのか」
 「有りません。家を売って賠償して示談成立。これで初犯実刑は通常ないですよ」
 館山弁護士が断言する。
 「生かさず殺さず。ハードSM系AVに堕として大学は自然に引退が良い」
 埼玉県警本部の段下衛警視正である。
 AVに堕として表社会から葬る。AV女優として生きてもらう事が調教師集団の最終目的である。
 「問題はお座敷で稼いで社会に公開されない。それで大学の講師を続けられています。これをどうひっくり返すかです」
 保木間が全体に意見を求める。
 「有罪になって禁固刑でも金は既に先方に返している。八ヵ月後にAVに堕ちたのではうやむやだな」
 墨田会系大船一家の稲垣七郎である。
 損害を出した会社も依頼元もどっちも会社は存在する。発注及び案件その物が架空なのである。
 死んだのは技術者ではない。借金に行き詰まって自殺寸前の社長が死んで家族を護っただけである。
 事故を起こす前に借金は杉本金融が肩代わりしたので他での債権は綺麗に整理された。杉本金融に館山弁護士から金が戻されただけである。
 証人も全て調教師集団が用意した。偶然居合わせたのではない。
 殺人事件ではない。自転車事故である。それ以上に捜査が拡大されることは無い。
 「早急にAVに堕として内村理事の問題が冷めない内に上野愛菜の懲戒免職が望ましい」
 段下警視正も成果を急ぐべきと考えていた。
 理事長から依頼されて調教師集団に話を通したのは平佐和である。お座敷で徹底的に虐めてAVに逃げざるを得ないように上野愛菜の責めを率先していた。
 「お座敷を大船一家に二回くらい代わりますか」
 本格的に堕とすにはやくざが適任である。
 
 上野愛菜に次のお座敷の日が迫った。
 恐怖に震える中で様々な事を回想する。
 あのゼミでいったい何が行われていたのか。
 現役学生らはある程度まで話した。だがある所から完全に口を噤んでしまう。
 SM紛いと発言した女子学生が私の主観でオーバー過ぎました。次のインタビューでは訂正している。
 美大ではよくヌードモデルにされる話を聞く。絡みまで有ったと言う。
 部活の宴会ではセクハラなどでは済まない内容を良く聞く。此処もそうだったのではないか。これまでもキャンパス内の出来事と介入されなかった。
 大学側の弁護士から圧力が掛かったのではないかと思う。
 ゼミの伝統は内村教授以前から続いていたと言う。OBらは教授の指導というのは否定している。
 民宿の奥さんは毎夜の宴会は確かに乱れていたと言っている。女の子のキャーキャー騒ぐ声は煩かった。
 それでも怒号や悲鳴などは聞いて無いと証言する。
 現役の学生も参加していたのではないか。そしてSM紛いと言う内容は自分が先日受けた拷問のようなものではなかったのか。
 いつまでもOBが参加する伝統と言うところに恐ろしさを感じた。
 民宿の奥さんは内村教授には個別の部屋が割り当てられていて先に寝ていることも多かったと語る。民宿にも大学の圧力が掛かっているのではないかと思う。
 
 あのお座敷はいったい何なのか。
 政治家、警察、市長、TCC社長と呼ばれていた。こういう人物があのような遊びをする。上野愛菜には由々しき事である。
 上野愛菜の認識の範囲では絶対に許されてはいけないと思う。だが今は限りなく無力である。
 大学の理事長に批判の反旗を翻した。マスコミを味方に付けたのに今は報復人事に怯える事態である。
 もし平佐和らの事をリークしたらどうなるのか。
 自分と同じ立場だった女性が女性警察官に相談した。それだけで女性警察官が拷問の上殺害されてしまう。総てが闇から闇に葬られたようである。
 常に見張られているのか。
 この街自体が特別なのか。何か総てが日本の常識と違う。
 もし平佐和らの事をリークしても無駄かもしれない。お座敷に居たコンパニオン全員がそんな人は来ていないと証言する。
 いや誰かがリークしても自分でさえそう証言しなければ抹殺される。
 あの宇佐美と言う男はその僅かな末端でしかないと思う。途轍もなく恐ろしい力がこの街を支配しているのかもしれない。
 とんでもないところで金を借りてしまったのかもしれないと後悔する。
 他に一切充てはなかった。
 ソープで働いても成り立たないことは宇佐美の言った通りだと思う。
 あのまま示談に持ち込まないで弁済不能で通したら。実刑の可能性も有った。どちらにしても大学は辞めなければならない結果と成ってしまう。
 このままお座敷で堪え続けて二年近く後に元の状況に戻るしかない。
 目を瞑れば幸運な取引なのか。
 館山と言う相手の弁護士は示談を拒めば確実に実刑に追い込んだと思う。
 埼玉県の条例で自転車保険の義務は知らなかった。もし入っていれば救われたかもしれない。
 あんな事故は想定もしていなかった。
 それにしてもあのドローンはなんだったのか。通行人二人が見ていないと証言する。見えないのかもしれない。
 通行人がドローンを操縦していたと考えるには無理が有り過ぎた。
 あのドローンは落ちて死亡した人物を狙っていたのではないのか。
 それでも自分の自転車を狙ってもあの人物が川に落ちるまでは計算できない。
 偶然自分に悪いことが重なった。
 館山弁護士は被害者に遺族は居ないと言っていた。本来ならもっと賠償金は高いのではないか。まだ少なくて済んだのかもしれない。
 そうなると保険に入ってない自分が悪いことになる。
 ただ許せないのはあのように遊ぶ政治家、警察官、市長である。だがこれがなければ自分は救われなかった。
 一番困るのは報復人事で岩見沢への異動である。
 
 上野愛菜の恐れていたお座敷の日が来た。
 朝から食事を減らして腸を空にして準備する。もったいないが恥ずかしいので真新しい下着を着ける。
 心臓がどきどきして胸騒ぎが続いていた。
 それでもこれから毎週行かなければ成らない。他に大学にばれないで返済する方法は無い。
 蓬莱の間に入る。
 女将の指示で宴会場の下座の端に座って待つ。
 控えの小部屋にはコンパニオンが十数人待機していた。前掛け一枚のトップレスである。
 乳房の形は様々。だが真平らに乳首だけとか極端に垂れているとか左右が離れすぎているなど形の悪い者は一人も居ない。
 宇佐美が全裸を確認して派遣していた。
 宴席は和室用の座卓が対面二列に置かれている。真ん中は広く開けてあった。座布団の横に別にお膳が置かれている。
 最初に真紀子が入って来た。
 上野愛菜に一瞥をくれて用意されたお膳の一番下座に座る。
 三十手前に見える細面の美人が高そうなスーツを着て女の怖さを滲ませていた。
 平佐和、安曇市長、長妻警視正、菱沼、前原の順に一気に入って来る。
 コンパニオンが一斉に席に向かう。真紀子以外の直ぐ横に一人ずつ座った。
 六人のコンパニオンはエプロンを外して座卓の上に寝る。脚を広げて膝から下を折って座卓の脚の辺りに下ろす。
 小湊雄一が入って来た。
 「おはよう御座います」
 上野愛菜に一応挨拶する。上野愛菜も挨拶を返す。
 座卓に乗ったコンパニオンの脚首を座卓の脚に縛ってゆく。
 仲居が入って来て座卓に乗ったコンパニオンの胸の谷間から臍下にかけて洗った大きな笹の葉を置いてゆく。
 次は女将が配膳用のトレーに入れてクスコに醤油皿を接続した奇妙な小道具を運んで来る。
 コンパニオンの膣にクスコを挿入して螺子を回して広げる。醤油皿は陰毛の黒い塊りの斜め上に突き出す。
 仲居が大根の妻を盛り付ける。次の仲居が刺身を盛り付けてゆく。
 隠微な女躰盛が完成する。
 飲み物は注文を聞かず女将がそれぞれ後ろから横のお膳に出してゆく。既に好みは確認されているらしい。
 真紀子が上野愛菜を座敷の真ん中に呼ぶ。
 真紀子がボタンを外して上野愛菜のジャケットを脱がす。カット層を捲り上げる。純白のブラが丸出しになる。
 「ねえ。これタグが付いているじゃない。貴方も新しいのを着けて来るのね。あまり悦ばれないわよ」
 「え」
 「おじ様方は貴方の日常が染み込んだ下着の方が悦ぶのよ」
 「でも。クラブで白を着けるように指導されています。私、普段白は着けません」
 「ねえ。前にも同じこと言った女が居たよね」
 「いた。いた」
 安曇市長が同調する。
 「来週も洗わないで同じもので来てもらえばいいよ」
 平佐和が提案する。
 「それが来週は取れなかったのです」
 TCC前原社長が答える。
 「他に取られた」
 「左様で」
 前原が詫びる会釈をする。
 「ひょっとして大船一家に取られたの」
 真紀子が確認する。
 「はい。左様で」
 また前原が答える。
 「貴方。来週は大変ね」
 真紀子が上野愛菜を振り返って言う。
 「ええー。怪我するのですか」
 「それは無い。怪我すると高いからね。保険に入っているけど一度使うと料率が物凄く高くなるのよ」
 真紀子はきっぱり言う。
 「それでは」
 上野愛菜は青ざめた表情で確認する。
 「ねえ。晴海ちゃん。東丸の馬鹿。香織と佐織に何した」
 真紀子は安曇市長の前で女躰盛りに成っているコンパニオンに確認する。
 「お○○こに蛇入れられました」
 コンパニオンは平然と語る。
 「えーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜は驚愕の悲鳴を上げる。恐怖の表情で床にしゃがみこむ。それでも膝を互い違いにしてタイトスカートの裾には気を使うことを忘れない。
 「大丈夫よ。毒の無い蛇だから」
 真紀子はあっけらかんと言ってしまう。
 「そんな。私気が狂います」
 「そのくらい確りしなさい。ハードコンパニオンでしょ」
 真紀子は当然の如く言う。
 「そんな。だめです。だめです」
 上野愛菜はヒステリックにうろたえる。
 「真紀子さん。精神異常に成ったら保険はどうなるの」
 平佐和が確認する。
 「さあ。気が狂って保険が降りてもね。まあ。遺族が潤うか」
 真紀子は完全にからかっている。
 「そ、お、ん、な」
 上野愛菜は不安のやり場が無い。
 「さあ。全部脱ぎましょうね。お仕事でしょう」
 真紀子の言葉は上野愛菜を更に辛くした。
 スカートを下ろされショーツも脱がされる。同姓と雖も下着を見られるのは恥ずかしい。
 「小湊さん」
 真紀子は緊縛師の小湊雄一を呼ぶ。
 「はい」
 「吊るして」
 「どの様に」
 「駿河問いね」
 「へい」
 小湊雄一はあっさり了解した。
 「お腹を下にして畳みに寝てください」
 小湊雄一は上野愛菜に指示する。
 上野愛菜が畳みに躰を伏せると短い縄で脚首を二本合わせて縛った。
 背中に伸ばした腕を重ね合わせ手首をこちらも短い縄で縛る。
 脚首と手首を合わせて両方の縄に楕円形のフックを付けた。
 この宴会場は天井裏に鉄板の枠を通している。滑車を付けられるフックが何箇所か出ていた。
 小湊雄一はそこに滑車を引っ掛ける。滑車の縄を引いてフックを下げた。手首、脚首を縛った縄に引っ掛けたフックを滑車のフックに引っ掛ける。
 滑車を引き上げる縄を引いて上野愛菜の躰を空中に吊るし上げてしまう。
 「ああーーーーーーー。ああーーーーー。あーーーーーーーー」
 初めての駿河問いである。上野愛菜は苦しさに悲鳴を漏らす。
 躰を捩って藻掻く。
 それでも上野愛菜のスリムな躰は空中に五角形に吊るされた。
 首だけが五角形から突き出している。乳首は斜め下にやや弾力を持った乳房に突き出ていた。
 真紀子はピンチを持ち出す。紐でリンク状のバネの中央を縛って繋げてゆく。
 それを見て女将が繋いだものを二本持って来た。
 乳首を抓む。次にその下乳房の盛り上がりの裾野を抓む。約五センチ置きに臍の横を抓んで太腿の真ん中まで抓んでゆく。全部で十二本である。
 もう一本を安曇に渡す。
 安曇は反対側の乳首を抓み同じように平行して付けて行く。
 最後にバラのピンチを四本。乳首の左右の乳房の皮膚を深めに抓む。
 上野愛菜は駿河問いの苦しみに加えてピンチに抓まれた痛みに堪えなければならない。
 「今回は一時間で許してあげましょう。次回は二時間ね」
 真紀子は徐々に調教するような言い方である。次に恐怖心を増させる。辛くなってAVに逃れるように一歩ずつ仕向けてゆく目的である。
 これを二時間。上野愛菜は一時間でも苦しい。もとより苦痛に堪える体育会系ではない。
 だがこれだけでは済まされなかった。
 安曇は膣にクスコを入れる。座卓に乗ったコンパニオンと同じようにクスコの螺子を回して膣を広げられる。
 「ああーーーああーーーーーーーーー」
 上野愛菜はまた何を入れられるか恐怖に縮み上がった。
 安曇は懐中電灯で照らして中が濡れてないことを確認する。面相筆にローションを塗ってクスコの中に入れる。
 ピンクの膣壁をゆっくり刺激してゆく。
 「はああーーーーーーー。はあーーーーーーーーーー。あーーーーーー」
 上野愛菜は面相筆の敏感な部分への責めに直ぐに声を漏らしてしまう。
 平佐和らもコンパニオンを弄くる。
 醤油皿の下のクスコに面相筆を入れる。
 躰の上の刺身は大方片付けた。醤油皿に醤油を継ぎ足す。
 「これが零れたら蛞蝓のお仕置きだぞ」
 平佐和が宣告する。
 「そんなーー。それはハードだけですーーーー」
 コンパニオンが泣き悲鳴で叫び抗議する。
 「蛞蝓の入った奴はハードの割り増しを払ってやるよ」
 前原社長が横から宣告する。
 「それでもだめーーーーーーー」
 コンパニオンは金切り声で拒否する。
 「判った。それじゃ日本酒五号瓶一気だ。こっちは拒否できないぞ」
 平佐和が宣言する。
 コンパニオンもこの座敷では酒は拒否出来ない。
 「もし誰も溢さなければ。ハードコンパニオンが蛞蝓責めだ」
 また平佐和が酷な宣告を追加する。
 上野愛菜はまたあれを入れられるのかと思う。本当に堪えられないと怯える。
 コンパニオンに女躰盛りだけでなく変わった道具を入れたのはこの為だったのである。
 吊るしの苦しさのうえ洗濯バサミの痛み。これが一気に引き剥がされたら相当な痛みが予想される。
 「あはああーーー。あはあーーーーー。あっはーーー」
 そして面相筆の責めも堪えられない。クスコの口から何かが流れ出るような感覚である。
 「愛菜さん。出てきましたよ」
 何とコンパニオンが指摘する。
 恥ずかしさに既に吊るされている躰が宙に浮く思いである。
 安曇は席に戻って座卓の上のコンパニオンを責めている。上野愛菜を責めているのは安曇の席に付いてこれまで躰を弄られていたコンパニオンである。
 宇佐美は冷酷にも上野愛菜に源氏名を付けてない。下の名前だけの本名で出させたようである。
 だが客は源氏名だと思っていた。
 座卓の上のコンパニオンは太腿の筋肉を怒張させる。震えるのを醤油が零れないよう踏ん張り続けていた。
 洗濯バサミの痛みは躰のフロント面全体を締め付けてくる。吊るしの苦しみも慣れるようで増してきていた。
 膣内の責めには何の抵抗もできない。それどころか苦しさから官能を受け入れてしまう。
 「ああはあーーーーーーーーーー。あはあーーーーー。ああはあーーーーーーー」
 膣から流れ出た液が畳みに流れ落ちている様子である。
 「ああーーーーーーーーーー。ああーーーーーーーーーーー。ああーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 畳に流れ落ちる音が断続的に聞こえる。
 座敷から拍手が沸く。
 「おーーーー。すごいぞーー」
 安曇の野次が胸に刺さる。
 漏らしてしまったのか。
 「潮を噴いた。いいぞ」
 今度は長妻警視正である。
 何と言うことだろう。自分が潮を噴くとは。上野愛菜は堪えられない恥ずかしいショックである。
 「零れたコンパニオンは誰と誰」
 真紀子が確認に立つ。頑張った甲斐もなく全員が太腿の白い肌に醤油を垂らしている。
 「彼女もういいよ」
 真紀子が上野愛菜を責めていたコンパニオンに終了を告げる。
 「さて。誰がこれ引っ張る」
 真紀子が座に確認する。
 「君江が引っ張るんだよ」
 安曇は自分のコンパニオンにやれと言う。
 「いやだーーーーーーーーー。わたしできないいーーーーーーー」
 コンパニオンは怖がっている。
 「御前もっと残酷にも潮噴かしたやろ。早く取ってやらにゃもっと痛くなるぞ」
 平佐和が嗾ける。
 「そんな」
 困り果てる。
 「さあ」
 真紀子が背中を押す。
 コンパニオンも痛みがだんだん増すと聞いて観念する。
 「いきますよ」
 上野愛菜は目を瞑って身構える。
 「一気に引いて。そうでないともっと痛いのよ」
 真紀子が更に追い詰める。
 コンパニオンも目を瞑って一気に引っ張る。
 「ぐうわあーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 吊るされた上野愛菜の躰が一気に迫り上がる。
 「ぐうがあああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 強烈な悲鳴になり空中で強く揺れる。
 「ぐがああーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 一度空中に固まり一気に反動で跳ね上がる。やり場の無い痛みに暴れ続けた。
 紐を引いたコンパニオンはあまりのことに顔を覆って畳みに蹲る。
 さすがに吊るしから下ろされた。真紀子が小湊雄一に合図したのである。
 畳の上でも藻掻き続ける。
 戒めを解くと潮が流れた畳の上で躰をさすって泣き続けた。
 小湊雄一が揉む必要を良く説明して乳房をマッサージする。痛みに暫く呻いていたがまだ軽微な方である。
 上野愛菜を暫く泣かせて放置する。
 小湊雄一がコンパニオンの座卓への縛りを解く。
 一人ずつ平佐和が酒をどんぶりに注いで一気である。
 その間に小湊雄一が上野愛菜の躰を拭いて次のプレイに備える。
 「ええか。溢したらもう一本だぞ」
 また平佐和が追い詰める。コンパニオンを酔わせるのが趣味のようである。
 御座敷に居る上野愛菜以外の全員が平佐和のその性癖を充分に理解していた。お座敷の時間には医務室に看護師が常に待機状態である。
 保木間がAVの男優二人を連れて下座で待機していた。
 女躰盛りを担当したコンパニオン全員の一気が波乱の状態を巻き起こしながら一応終了する。
 真紀子が再び上野愛菜に近付く。
 「さあ。今日はもう痛いことは無いわよ。気持ちよくしてあげる」
 男優二人が座敷にマットを敷いている。
 「愛菜さんとやら。あんたは今夜二穴挿入を経験してもらうんや」
 平佐和が悪乗りして宣告する。
 「・・・・・・」
 上野愛菜には解らない。
 「あのね。娘の穴とアナルに一本ずつ二人の男優さんが入れるのよ」
 「ええーーーーーーーー」
 上野愛菜は驚愕して上半身を後ろに仰け反らせた。
 「まあ。お客さんのリクエストだから。別途に男優さんまでお呼びして」
 真紀子は説明しながら追い詰める。
 確かに始める時に宇佐美から絡みも仕方ないと言われていた。アナルと二本に驚いたのである。
 そこに保木間が割り込む。
 「大丈夫ですよ。この二人はプロです。痛く無いように慣らしながら行きます」
 役者のような男が優しく説明する。真紀子の凄みとは対照的である。
 「みなさんAVの方ですか」
 「この二人は男優です。私は監督とこの街のマネージャーをしています。保木間貴明と申します」
 「あなたがこの街のマネージャーですか」
 上野愛菜は疑問に思っていた事の片鱗に触れた気がした。
 「この街本宿と伊佐沼とそれを結ぶモノレールはAVの資本が元で出来ています。オーナーはR国に居ます。私は街の全権を依頼されたマネージャーです」
 「そうしますと宇佐美さんの上司ですか」
 上野愛菜は杓子定規な聞き方をする。表社会だけで裏を知らないで真っ直ぐ歩いてきた女。商売さえも知らない。大学の人間関係が全てである。
 「ちょっと違います。宇佐美さんはこの街で女優やコンパニオンを派遣する商売です。私の立場は街のインフラをマネジメントしてAVも制作します」
 「そうしますと宇佐美さんは保木間さんの制作されるAVに女優さんを派遣しているのですね」
 上野愛菜は辛うじて表面だけ手探りに理解した。
 「そうです。貴方の事情も聞いています。これから行う事は此処では避けられません。でも最大限負担を軽くします」
 保木間は何処までも柔らかく説明する。
 上野愛菜も拒むことは出来ないのは理解するしかない。どちらにせよソープで働くまで考えざるを得なかったのである。
 浣腸の準備が成される。これも受けなければ成らないと宇佐美から宣告されていた。堪らなく理不尽で恥ずかしい以上である。
 アナルに挿入の為でもこの場で排泄をしなければならない。そうでなければ客の怒りでクレームになる。そこは理解するしかない。
 一人の男優が上野愛菜の躰を押えてあと一人が浣腸器でアナルに注入する。
 食事が余り喉を通らず腸が空に近いのが幸いである。
 アナル栓が捻じ込まれた。
 ローションを塗ってアナルパールを入れる時のコツで柔らかく入れる。医者がアナルを診察するより痛みは抑えられていた。
 男優らは小湊雄一がマッサージしたが説明して浣腸の成果を待つ間にマッサージを強化する。
 「一時間ですからいつまでも痛みは残りませんが、二時間ですとマッサージが激痛です。でもマッサージしておかないと一週間くらい感覚が戻りません」
 保木間はやんわり説明する。だが確り次への恐怖を真紀子の言葉に加算していた。
 「大丈夫ですよ。浣腸液は温く濃いですから多少おなかが痛くなりますが我慢して下さい。殆ど溶けて茶色い水しか出ません」
 保木間は小声で耳打ちする。恥ずかしさはかなり軽減されると言う意味である。
 上野愛菜もそこまで言われれば保木間にはやや感謝する気持ちも起きてしまう。辛く怒りに滾っているのが保木間にだけは向かない。
 やがて透明なボールが持ち込まれアナル栓が抜かれた。
 羞恥の破局の瞬間である。
 上野愛菜はスレンダーで典型的な美人。そして理知的に見える風貌である。
 座敷の期待は嫌でも膨らむ。全員が好奇の目で見据えていた。
 茶色い水が威勢よく流れ出る。音は避けられない。だが便は僅かな固まりがぽつぽつとボールの底にあるだけで溶けてしまっている。
 上野愛菜は辛いながらやや安堵した。
 「サービス精神が無いな。ちゃんと正味を用意してきてくれないと」
 平佐和が苦言を呈する。
 「あのう。まだ新人で二回目ですから。このお座敷は辛いです。食事が喉を通らないのですよ。その代わり随分恥じらいを御愉しみになれているのでは」
 保木間がやんわり宥める。
 「保木間さん。前も同じようなこと仰いましたが。もっとサービスが良く成りませんか」
 長妻警視正である。
 「まあ。まあ。保木間さんにそこまで言うなよ」
 平佐和が嗜める。保木間には一目置いているようである。
 男優らは上野愛菜の躰を拭いてアナル調教を始めた。
 キシロカインゼリーを薄い手袋をした指でアナルに塗る。キシロカインゼリーは皮膚表面麻酔である。
 保木間は座にこれもゆっくり説明してゆく。上野愛菜がAVに移り易くする準備行動を含んでいる。
 アナルパールで暫く責めた。お尻が性感ということを理解させる。
 そして比較的さおの細い男優がゆっくり挿入する。
 最初はアナルだけ責めるのである。
 だが上野愛菜にこの責めから逃れることはできない。新人AV嬢のようにアクメを晒すことになる。
 男優はゆっくり丁寧に責める。もう一人は敢えて他の箇所を責めないで躰を軽く触る程度の包むような責めで協力する。
 「ああーーーーー。ああ。ああ。ああーーー」
 上野愛菜に反応が見えてきた。やや速度を上げる。
 完全に燃焼させる必要はない。性感の刺激に呼応すればよい。
 上野愛菜の背中を覆うように挿入していた男優が両脚を左右斜めに広げて前に出す。
 男優は挿入を外さないように上野愛菜の腋を持って後ろに自分の躰ごと倒す。
 上野愛菜の膣口が股間を広げて正面を向く。挿入体制である。
 もう一人の男優が上野愛菜に最後の審判を下す。
 完全に二穴挿入が完了した。
 下の男優はいきむだけで動く必要は無い。膣に入った男優が上野愛菜の肩を抱えて責めまくる。
 「ああーーーーーーーーー。あはああーーーーーーーーーー。あはああーーーーーーーーーー。あはああーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜はアクメに向かってまっしぐらになる。
 女のプライドを主張する女の片鱗すらない。
 膣に入れた男優が更に速度を上げる。
 「ああ。ああ。ああ。ああ。ああ。ああ」
 上野愛菜の上半身が宙に浮き眉間に二重の皺を刻んで眉毛は寄る。口を半開きに逝き顔が悶え続けた。
 乳首はびんびんに起っている。
 絡みから開放されるとマットの上に大股を開いたまま崩れた。
 荒い息遣いはなかなか治まらない。
 
 上野愛菜は部屋に戻ると今夜もそのまま倒れてしまった。翌日講義は無い。
 昼近くに起きてようやくシャワーを使う。入念に歯磨きをして口を洗う。
 なかなか不快感は去らない。
 委員長から携帯に連絡が入る。三時から会議と言って来た。
 仕方なく身支度を整えて部屋を出る。
 新都市交通で本宿に出た。
 発車寸前のモノレールに乗る。座席に保木間が居た。思い切って隣に座る。
 「昨夜はどうもありがとうございました」
 取り敢えず親切に説明してくれたお礼を言う。
 「お躰の方は大丈夫ですか」
 「はい。どうにか」
 「まあ。ご事情から他でどうにも成りませんから堪えて頂くしかありません」
 「あの。今度少しお話できませんか」
 「いいですよ。今でも」
 「実はこれから大学で会議なのです」
 「それでしたら。お戻りに成ったらご連絡下さい。いま名詞の持ち合わせが無いもので」
 そう言って保木間はメモに携帯番号を書いて渡す。
 「ありがとうございます」
 モノレールは武州駅に着いた。
 
 会議には委員長と委員九名が集まった。
 「このままでは民族学のゼミで何があったか闇の中のまま幕引きに成ります」
 「民宿の女将の証言では煩くて乱れていたが、悲鳴とか怒号は聞いてないと言うことですからね」
 「SM紛いの拷問でギャグボールを咬まされていたとか」
 「民宿の中で行われたとは限らないのでは」
 「古寺には人は住んでなかったのでしょう。そこで何かが行われたとか」
 「そうなると内村教授は割り当てられた部屋で休んでいたという女将の証言が生きてしまいます」
 「その前に現役の学生にまで何かが及ぶ。だから追求はやめろという弁護士の指示です」
 「理事長側の言い分よ」
 上野愛菜が強く断定する。
 「学生が発言を撤回している。そしてこっちが報復人事に曝されているのだ」
 委員長はもう引きたい。
 「このままでも報復されますよ。上野さんどうです」
 「そうです。もう少し情報を掴んでもう一度マスコミにリークするしかありません」
 「どうせ報復されるなら最後まで闘うしかない」
 この委員は上野愛菜に同調する。
 「ここまでで幕を引いたほうが無難じゃないですか」
 タカ派とハト派は五対五である。
 上野愛菜としては岩見沢キャンバスへ飛ばされて辞めるなら最後まで闘いたい。
 ゼミの内容を解明して隠蔽しようとした理事長を世論の力で退陣に追い込むしかない。
 上野愛菜は二部の学生に目を付けた。もしかしてそこまでは統制が行き届いていないかもしれない。
 二部の学生が登校する六時まで待った。
 二部の学生は職場から自宅には帰らない。学食で夕食を摂る。丁度良く二人一緒に食事をしていた。
 自分の抗議に出る学生である。直ぐに休講掲示を出す。そして二人を研究室に引っ張る。
 強行だが録音してしまう。
 「私たちは仕事が有りますので参加できたのは有給を含む休日三日だけです。実際に何か有った日は帰ってしまっています」
 女子学生は自分らに聞かれてもと言う姿勢である。
 「肝試しも私たちは参加しませんでした」
 男子学生も引いている。
 「他の人達から何か聞いていませんか」
 長い沈黙が続いた。
 「罰ゲーム。じゃない。お仕置きの定義は何」
 上野愛菜は必死である。
 「拷問」
 更に突っ込む。
 「そんな」
 「じゃあなに」
 上野愛菜は食い下がる。
 「部活では良くある事と聞いています」
 「その内容は」
 何としても話して欲しい。
 「強姦」
 「いいえ。性交までは無いと聞いています。男性も受けますから」
 「猥褻レベルは有るのね」
 「古いインターネットの書き込みですが」
 と女子学生は語った。
 『どちらも着衣のまま縛られる。
 男性は女性から泣くまで手や口で何回も抜かれる。
 女性は失神するまで指や道具で責められる。』
 「言えません先生。他にも失神させられた子も居ます。その子も他の子を責めさせられています」
 「そうです。これは不問にして頂いた方が」
 「そうです」
 「内村理事はそのとき何をしていたの」
 「判りません。ただ私たちが滞在して居る間ですと教授は宴席を直ぐ立ってお部屋でお休みに成っていました」
 「そう」
 上野愛菜はやや意気消沈した。
 「そのお仕置きは何処でやったの」
 「それは何とも。ただあの民宿では無理ですね」
 「それは」
 「ご主人や女将さんが何度も出入りしていました」
 「そう」
 上野愛菜はまだ突っ込みたい。それでも二人のあからさまに迷惑そうな表情から諦めざるを得なかった。
 
 上野愛菜は本宿に戻って保木間に連絡する。
 保木間はミッドタウンのコンコースに降りてきた。
 宴会の行われた雑居ビルに隣接した建物。上野愛菜をその三階に在る屋台村に案内する。
 一軒のバーカウンターのような店に入る。
 「何がお聞きになりたいのですか」
 「どうしてAVの監督さんがこの街のマネージャーなのですか」
 「この街自体がAVの資本で最初作られました。経営母体が同じなのです」
 保木間は座敷で説明した同じ事をもう一度説明する。
 「そういう業界のための街なのですか」
 「AVの女優さんや風俗に勤める方が安心して生活できます。ですが非正規雇用の人口が大半です」
 「非正規雇用」
 「企業のオフィスや工場が内部及び隣接しています」
 「此処で働いて此処の寮に住むのですか」
 「そうです。独身者は此処の下層階の寮に住んでこの街の企業や工場で働きます。家族のある方は伊佐沼タウンに住んでモノレールで此処に来ます」
 「何故。独身者と家族を振り分けるのですか」
 「どうしても生活習慣が合いませんから。それと此処のモールは歓楽街でもあります。風俗営業がやりやすいためです」
 「コンパニオンの方たちは」
 「ほとんどが伊佐沼です。お子さんのある方でないとあの仕事は出来ません」
 「では学校とか病院は」
 「どっちも伊佐沼です。本宿の高校は廃校になって小学校も統廃合されました」
 「逆に武州市全体は寂れたのですか」
 「この街が出来て武州市の人口は五倍になりました。逆に歴史の観光地部分を除いて周りは寂れて農地に戻りました」
 「この街にはAVの女優さんがたくさん住んでいるのですか」
 「高層階にはそれなりに居ますよ」
 「現役の方も」
 「僅かに。大方が高額に稼いで高層階の部屋を幾つか持って家賃収入で生活しています」
 「コンパニオンの人達はあのような仕事ではなくて、寮と派遣の仕事があればそれで生活して行けないのですか」
 「生活は出来るでしょう。でも将来が。子供を大学まで行かせるには相当に蓄えが要ります。それに託児所がそんなにありません」
 「でもあの人達は」
 「本宿小学校の跡地が二十四時間託児所です。此処の託児所は風俗専用で無料なのです。半分くらいが宇佐美氏の負担です」
 「そうなのですか。外からもこの街に通ってくるのですね」
 「買い物には来ます。通勤は認められていません。此処で働くにはこの街に住まなければ成りません」
 「どうしてですか。借金とか」
 「それは宇佐美さんのところでごく一部です。この街の中だけで経済を回す為勤めるには寮に入る事が条件です」
 「ええ。何故でしょう」
 上野愛菜には意味が解らない。
 「この街で払った給料はこの街の中で消費して貰います。それによってこの街の経済だけが急激に活性化されました」
 上野愛菜は何か釈然としない。女が態々風俗、AVに堕されて行く街にすら思えてならない。
 R国に居るこの街のオーナー。恐ろしい人物である。そしてこの街を護る裏の組織。これが現代日本の一部なのか上野愛菜は無力に震えるしかない。
 「此処のママも元はお座敷に出ていたのですよ」
 そう言い置いて保木間は金を払って帰ってしまう。
 「あなたお座敷何回目」
 「二回出ました」
 「私も八回やったけどとても堪えられない。普通のコンパニオン週三日やりながら五年掛かって返した」
 「私は二年弱やらないと駄目なのです」
 「無理よ」
 「どうしてもやらないとならないのです」
 「貴方なら保木間さんに頼んだらAV数本で返せるよ。二年弱なら三千万位でしょう」
 「そうです。でも私は大学の講師なのです」
 「その立場を護りたいから」
 「はい」
 「無理だと思う」
 きっぱり核心のある言い方である。
 「普通のコンパニオン週三日ですか」
 「でもこっちはいろんな人が来るから絶対ばれないとは言えない。あのお座敷だけでは済まないから」
 「AVはやらなかったのですね」
 「やったわ。三本だけ。でも私では安いしそんなに仕事が貰えなかった。芸者と同じルールでホテルに朝までもやった」
 上野愛菜は部屋に戻ってもママの言葉が頭に響いた。もう不安以上の絶望が全てを支配している。
 
 二部の学生らとの会話を録音したテープをコピーする。当てになる数箇所のマスコミに送った。
 マスコミは再び沸き立ったが上野愛菜への学内の非難も高まる。学生らが講義をボイコットした。
 二部の学生二人は不問にとお願いした。それを上野講師が強引にマスコミリークしたと学内で問題になる。
 執拗なマスコミ取材に自殺した学生と同じ事をされた女子学生が泣き出したからである。
 既に教授は辞任している。
 OBだけで教授はあまり関わってないと言う報道になってしまう。実名は出ないがお仕置きだけが面白おかしく取り沙汰された。
 内容は公表されて無いが事情を知っているゼミの仲間が上野講師は理事長、学長を退陣させて実験を握ろうとしていると触れ回る。
 タカ派だった他の委員も不問の方向に靡いた。さらに上野愛菜の前途は絶望的に成ってゆく。
 
 本宿スカイタウン最上階の和食。小上がりの襖を閉めた座敷である。
 極東経済大学の理事長、学長、平佐和、段下警視正が集まっていた。
 「あの女また騒ぎを拡大しおったんですよ。幸い弁護士が学生を説得して争点を摩り替えてしまいましたがそろそろ何とか成りませんか」
 会見で散々マスコミに突っ込まれた学長は泣き言を漏らす。
 「もう少しや。お座敷でたっぷり虐めている。あの座敷で十五回続いた者は居ない。スナックけめこのママさんが十四回。それが最高や」
 平佐和がけろりと言う。
 「あれは飛び飛びで毎週ではない。それに今ほどハードではなかった。もうじき堕ちる」
 段下警視正である。
 「今週は大船一家がやるから。あれ二回でもかなり効くよ」
 平佐和が安心しろとばかり言う。
 「今月中には」
 学長は早く何とかして欲しい。上野愛菜に煮えくり返っていた。
 「まあ。来月いっぱいは待ってください。それなら確実です」
 段下警視正は慎重論である。
 
 上野愛菜に次のお座敷の日が来た。
 天昇の間である。
 コンパニオンは一人も居ない。
 既に座敷には櫓が組まれている。横に透明なバスタブが置かれさらにシャワースタンドも立っていた。
 シャワースタンドは二メートル四方で淵の高さ50センチのバットの上に立っている。後ろ二面は透明なガラスでその後ろには大型の鏡が立っていた。
 シャワースタンドもバスタブも上水、排水が接続されている。
 何故か円形の着替えブースも置かれていた。
 宴席はL字に三席ずつ六席である。
 女将と仲居が料理と酒を並べてゆく。席順が決まっているのかそれぞれ違った銘柄を置いて行った。
 稲垣七郎若頭を先頭に他組員五人と芸者姿の女が一人入って来る。
 「ご指名に預かりましたハードコンパニオンの愛菜でございます」
 畳に三つ指着いて挨拶するが本来言わなければいけないセリフは省略である。
 「うむ。初めまして。隅田会系大船一家の若頭補佐で大谷彰浩です。こちらが稲垣七郎若頭」
 順に木村相太若頭補佐、橋下五郎本部長、東丸秀三郎若頭補佐、右田吾一舎弟頭を紹介する。組の錚々たる幹部ばかりである。
 「こっちは椿姫奴。俺んとこの花電車の芸人や」
 東丸秀三郎若頭補佐が紹介する。
 上野愛菜は一瞬躰が恐怖に震撼した。北嶋真紀子が言っていた蛇を女に入れる恐ろしい人物である。
 「お前挨拶省略してるやろ。私の躰で全身奉仕致しますといわにゃあかんよ」
 右田吾一舎弟頭が注意する。
 「申し訳ございません」
 上野愛菜はただ単に謝るだけである。
 「まあ。新人や仕方なかろう」
 稲垣七郎が許してしまう。
 宇佐美は次のように指導した。
 『ご指名に預かりましたハードコンパニオンの愛菜でございます。本日は私の躰を全身奉仕致します。何をされても結構でございます。私のこの躰でとことんご満足の行くまでお遊びください』
 とても上野愛菜に言える台詞ではない。
 「そこの赤い円形の更衣室で中に有る衣服に着替えろ。一分以内だ」
 東丸秀三郎若頭補佐が命令する。
 中に籠が置かれていて今の制服と色の違うミニスカスーツが畳んで入っている。下着もある。中学生か高校生の着けるような下着である。
 何故。裸にされるのに更衣室があるのか分からない。だがとにかく急いで着替える。色以外大きな違いはスカート丈が短いだけである。
 ジャケットの前ボタンを留めると円形の幕が落ちる。丁度一分らしい。
 椿姫奴が更衣室を端に退かせて上野愛菜の籠に無造作に入れた衣類を宴席の下座の方に逃がす。
 東丸秀三郎若頭補佐が上野愛菜に近付く。
 後ろに倒れるように手で促し膝を二本揃えて持ち上げる。スカートの中が丸見えに成る。履いて来た下着よりもっと恥ずかしい。
 短めの縄で膝を縛り合わせる。
 フックを付けた。そのフックを持ち上げ片手で肩を抱き抱え櫓の下に持って行く。
 櫓にぶら下がった滑車のフックに膝のフックを填め込む。
 肩を離すと上野愛菜の躰は膝を折った逆さ吊るしに成る。スカートは捲れて恥ずかしい中学生下着が丸出しに成っていた。
 女将が台車に大きなボールを乗せて運んで来る。中は擂った山芋のとろろである。柄杓が一本添えられていた。
 東丸秀三郎若頭補佐が椿姫奴を呼ぶ。捲れたスカートを摘み上げ捲れを戻してそれを持つように指示する。
 とろろを柄杓で掬ってスカートの中に流し込む。何杯も流す。手を突っ込んで下着をずらして膣口を開く。
 「ああーーーーーーーーーーー」
 膣に指が触れて上野愛菜は僅かな悲鳴を漏らす。
 東丸秀三郎若頭補佐はそこにたっぷりとろろを掛ける。
 さらにジャケットの下のカット層を引っ張って腹から胸の方にも流す。背中にも流す。髪の毛まで流れ顔にも掛かる。
 スカートの裾を股間で前後ろ先端を合わせてクリップで止める。
 そのまま放置である。
 「お姉ちゃんこっち見てや」
 東丸秀三郎若頭補佐が呼ぶがとろろが流れて目を開けられない。
 椿姫奴が顔だけおしぼりで拭いてやる。
 「これから花電車やるからよく見てや」
 東丸秀三郎若頭補佐は椿姫奴を座布団にお尻を突かせる。着物の裾を一気に捲り股間を丸出しにする。
 まだ三十そこそこ肌にハリは十分にある。土手の黒い塊は既に剃られていた。
 東丸秀三郎若頭補佐はいくつか小道具の入った籠を取る。
 タンポンを椿姫奴の女に挿入した。
 それに糸を結び付ける。
 リンゴを切って皮を剥いて見せる。
 次に吹矢を取り出す。口に咥えるのではない。膣に咥える。
 「あなた動かないでよ」
 椿姫奴が声を掛けた。
 上野愛菜に緊張が奔る。
 一発目がスカートの土手の真上部分、スカートに隠れた太腿の谷間に当たる。
 「動かないでよ」
 また椿姫奴が注意する。
 次は乳房の真上に刺さる。ジャケットの上からでブラに態と厚みがあった。
 次も反対の乳房に当たる。
 どちらも貫通はしていない。
 「これが花電車や。何で花電車言うか分かるか」
 東丸秀三郎若頭補佐が茶化す。
 「解りません」
 上野愛菜は逆さ吊るしの苦しみの中で恐怖に怯えながら答える。
 「見せるけど乗せないから花電車や」
 「・・・・・・・・」
 どうにも上野愛菜に理解の行く説明ではない。
 「ええか。こうして女の性器も裸のエロい芸も見せるけど客を上に乗せてまぐわいはしないのや。鉄道の花電車も客を乗せないで花を付けて走るだけや」
 「はい」
 上野愛菜は花電車その物も知らない。近年そのようなものは走らない。
 次に蛇の入った水槽が台車に載せて運ばれる。
 「・・・・・・・・・・・・・」
 上野愛菜には恐怖でもう声も出ない。
 椿姫奴は自分の女の部分にクスコを挿入する。螺子を回して大きく広げる。
 「よーく見て」
 上野愛菜は蛇が恐ろしくて震えだす。そしてとろろの痒みも効き始めている。さらに逆さ吊るしは苦しい。
 椿姫奴は蛇を素手で掴む。その頭を自らクスコに挿入する。先端が子宮に当たるくらい入っていた。
 「いやあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜は遂に堪えられない悲鳴を上げる。
 そして痒みに躰を捩り始めた。
 「痒くなったか」
 大谷昭浩若頭補佐が声を掛ける。
 「痒い。かゆいですーーーーーー」
 上野愛菜は叫びながら痒みに堪えられない。究極に空中で躰を捩り藻掻く。
 「お前。その櫓の右前。そこの棒を掴んで縄が巻いてあるやろ。それを巻き取れ」
 上野愛菜は言われた通り櫓の横の鉄パイプに掴まって杭のような部分に巻き付けてある縄の巻きを回し取ってゆく。
 「下にクッションがあるけど。直ぐ離すなよ」
 片手をクッションの上に敷かれたブルーシートに着ける体制に定める。ゆっくり縄を緩めて手を着いて頭から着地する。
 「自分で膝の縄を解け」
 上野愛菜は既に痒みに堪えられない。
 「ああーーーー。ああーーーーーー」
 痒みに喚きながら狂ったように縄を解く。
 「服を脱いでそこの湯に浸かれ。酢が入れてあるから中和する」
 上野愛菜は堪らずスカートを脱ぎ捨てショーツも一気に引き摺り下ろす。
 ジャケットをかなぐり捨てながら湯に下半身を浸けた。ブラも引き千切り全裸で透明な湯に浸かる。
 透明な浴槽だがもう恥も外聞もない。痒みから逃れる一身で膣に指を突っ込んで中を洗う。
 座敷から拍手が沸く。
 ストリッパーではない。現役大学講師。そして憎むべきフェミニストのストリップである。座敷は沸きに沸く。
 上野愛菜は全裸も構わずシャワースタンドに立って頭から躰を入念に洗う。
 椿姫奴は膣に入っていた蛇を座敷に投げ出す。
 蛇は体をくねらせて座敷を這う。
 上野愛菜はシャワーを持ったまま悲鳴を上げる。
 椿姫奴が蛇の首と尻尾を掴んで自身の首に巻く。
 上野愛菜の躰はぶるぶる震える。
 そのまま蛇は水のない水槽に戻された。中には数匹蠢いている。
 椿姫奴がバスタオルを上野愛菜に渡す。ヘヤードライヤーと櫛の入った籠を後ろの鏡の前に置く。
 上野愛菜は躰を入念に拭いて髪を乾かす。
 躰はぶるぶる震えている。
 「さあ。蛇入れポンしましょうね」
 椿姫奴がやさしく言う。
 「いやあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 強烈な悲鳴が座敷を震撼する。
 「何言っているの。ハードコンパイオンでしょ。私もやったのよ」
 「だめ。だめ」
 上野愛菜は歯をガチガチ震え続ける
 「仲居さんこれ片付けてください」
 椿姫奴はあっさり言う。
 上野愛菜は畳に崩れた。
 大谷昭浩若頭補佐が縄を持って来て高手小手に縛り上げる。さらに太腿の裏に脹脛を密着させて脚首と膝を縛り合わせる。両脚とも縛り畳に転がす。
 ドリルバイブを持ってくる。
 「最初は棘付きが良いだろう。まだ三回目らしい」
 稲垣七郎若頭が急ぐなと指示する。
 「へい」
 上野愛菜にはどっちも恐ろしいものにしか見えない。その棘の付いたバイブレーターらしきを突っ込まれる。
 大谷昭浩若頭補佐は上野愛菜の膣にローションを流し込む。
 嫌悪極まりない親父の手で恐ろしい姿のバイブが自分に入って来る。堪らなく悔しい。それでも今の立場は受けるしかない。
 つい少し前までなら正当な主張を通していた。このような親父はとことん法律で裁いて追い詰められる立場であった。
 今は賠償金を払う立場。その為にその人達の出すお金で借りたお金を返している。
 数日前のママの言葉がよみがえる。絶対に無理。そうかも知れないと思う。
 だが棘付きのバイブは痛くは無い。気持ち良い刺激が襲ってくる。また逝き顔を晒して襤褸襤褸の姿にされる。
 羞恥の坩堝に堕された。
 どうせやくざだ。どうにでも見たいだけ見ろ。蛇よりはましと思うしかない。
 いや蛇だけは堪えられない。気が狂ってしまうと思う。
 気が狂ったら賠償金はと北嶋真紀子が言っていた。気が狂ったら全額返済に充てられて自分は精神病院行きで終わってしまうのではないか。
 恐ろしい。それだけは逃れたい。
 「愛菜とやら。随分濡れてきたぞ」
 大谷昭浩若頭補佐は愉しそうに素見す。
 「いやあーー」
 堪らない屈辱である。これが此処の座敷では合意で一切犯罪にならない。その条件を提示されて金を借りずには済まなかった。
 そして大学の講師の立場も護れない事態が迫っている。
 「ああーー。あはあーーーーーー。あはあーーーー。ああーーーーー」
 遂に官能の奥まで抉られてしまった。
 もう制御出来ない。どうにでも成れと思う。
 「愛菜さんよ。こんなやで」
 大谷昭浩若頭補佐は畳に零れた濡れを指に拾って乳房に擦り付ける。
 「ああーー」
 上野愛菜はその量に羞恥のどん底に堕された。
 「あはああーーーーーーーーーー。あはああーーーーーーーーーーー。だめーーーーーーーーー。あはあーーーーーーーーーー」
 悔しくても巧みな責めに追い詰められる。
 「ああーーーーーーーーーーーーーーーー。あーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜の躰は激しく震撼する。膣痙攣は架橋に達していた。
 悔しくても完全に上り詰めた事を自覚する。
 それでも許されない。
 大谷昭浩若頭補佐はドリルバイブを構えている。
 抜いた棘付きバイブを大谷昭浩若頭補佐が宙に翳す。恐ろしく濡れている事が嫌でも判る。気が遠くなるくらい恥ずかしい。
 容赦なくドリルバイブが挿入された。
 大谷昭浩若頭補佐は嬉々として哂っている。
 スイッチが入る。
 「ああがあーーーーーーーーーーーーーーーーー。あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。あーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜には初めて受ける強烈な責めである。抵抗する術は無い。
 「いやあーーーーーーーーーーーー。だめーーーーーーーーーーーー。ああーー。まってーーーーーーーーーー。まってーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜は予想外の強烈な責めに恐怖状態である。
 大谷昭浩若頭補佐は構わず責め続ける。
 「ああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。あーーーーーーーーーーーーーーーー」
 上野愛菜の躰は強く震撼する。腹を上に腰が迫り上がる。そのまま次の瞬間堕ちてしまった。
 大谷昭浩若頭補佐はそれでも動かし続ける。上野愛菜に反応は無い。
 失神を確認して全員がそこに集まる。
 「今回は躰に落書きして終了だ」
 稲垣七郎が決めてしまう。
 全員がマジックで躰中に卑猥な落書きをする。本人が気付いた時ショックが大きいためである。
 上野愛菜は冷たいタオルで女将に起こされた。
 「もう皆さん帰りました」
 全裸だが縛りは解かれている。躰を見てショックだが女将の前では直ぐに衣類を着けて引き上げた。
 
 部屋にたどり着いてもショックは去らない。
 どうにも前も後ろも真っ暗である。
 膣の中を何かが暴れている感覚が去らない。
 そして力なくそのまま倒れてしまった。
 徐々にどうにもならないくらい堕落して行く。そう解っていてもそのまま立ち上がれない。
 そのまま眠りに堕ちてしまう。
 
 翌日も昼近くに起きて落書きを必死で消す。涙がぽろぽろ零れる。
 講義のボイコットをした学生らはまだボイコットを解いてない。
 大学の闇を追及して健全化を図ろうとした自分が何故ボイコットされるのか。学生らの考え方に理解が行かない。
 だがいまは話し合う精神的活力が無い。全てに打ちのめされている。
 部屋から出る力も無い。腹は減っているが食事をしようと思わない。
 また屋台村のママの言葉が蘇る。無理よ。無理だと思う。二回念を押された。
 保木間は私を何故あそこに連れて行ったのか。お座敷を抜けさせてAVに呼ぼうとしていたのかもしれない。
 あのドローンはなんだったのか。二人の通行人に見て無いといわれてしまった。
 警察は端から信じていない。だから捜査はしてくれない。
 『通行人二人がグルで死んだ男性が自殺。ドローンがその幇助であんたが其処を通る時間に合わせていなければ有り得ない』
 それが警察の説明である。その先は心象が悪くなって行くだけであった。
 野村未来也弁護士に説得された。
 保険に入って無かった自分のミス。義務は知らなかったが自転車の保険を考えなかった訳ではない。御座なりに成っていたのである。
 学生らはゼミの伝統で肝試しとお仕置きに参加を強制された。
 責めた者も責められた者も全て無い事にしたい。自殺者が出てもこれから生きてゆく自分らの事を隠したいのか。
 OBは否定しても学生らは一度話す体制に成った。だが次には否定した。責められた学生が止めてくれと言ったのか。大学側の弁護士が説得したのか。
 自分への非難は自殺した女子学生と同じ事をされた女子学生が泣き出したからである。
 最早、真相究明も理事長らを辞任に追い込むことも無理に成ってしまった。
 委員らも自分以外全員が不問にする方向に傾いた。
 もう打開策は無いかもしれない。
 それでお座敷を続けるのか。講師を続けて大学に残れないならいまの苦しみはまったく意味が無い。
 だが借金は残る。ならばAVで返すのか。それでいいのか。
 宇佐美は無修正AVと言っていた。自分の羞恥の総てが社会に公開されてしまう。自分の講義を受けていた学生らも見ると思う。
 自分の乳房は愚か性器まで見られてしまう。座敷の客とは違う。
 そんなことはあってはならない。
 ならば逃げる。
 宇佐美の恐ろしい警告が蘇った。別の組織が来なくてもやくざに追いかけられる。
 やくざなら警察を呼べば何とか成るか。宇佐美はやくざなのか。
 消費金銭貸借証書には無利息の約定と書かれている。違法金利などではない。正当な借金ほど最後には苦しむと誰かが言っていた。
 通常では違法な借金は出資法に違反するから踏み倒せる。
 御座敷を続けるしかない。逃れる道は無い。
 またそのまま部屋に倒れてしまう。
 
 相変わらずSNSに上野愛菜の講義ボイコットの宣言が告示されている。教室に行っても一人も来ない。
 大学側が何か学生らを誘導しているのではないかと疑う。
 今週は低学年のクラスと兼任の他の大学の講義だけ行う。
 そしてまた恐怖に怯えるお座敷の日が近付いて来る。上野愛菜はただ怯え続けるだけである。
 
 上野愛菜が次のお座敷に出る二日前。蓬莱の間である。
 極東経済大学の理事長、学長、平佐和、段下警視正、北嶋真紀子が集まっていた。
 コンパニオンは居ない。
 大船一家が上野愛菜を羞恥の限り責めた座敷の隠し撮り録画がスクリーンに投影された。
 「これは溜飲が下がりますな」
 学長は心底から悦んでいる。
 理事長は無言で哂っていた。
 「我々の手でとことん辱めて拷問したいですな」
 学長は上野愛菜への憎しみに滾っている。
 「それは総てが計画的と上野愛菜に解ってしまいます。本人は怒り狂うでしょうが、自分のミスで堕ちた悲壮感が消えてしまい逆効果です」
 段下警視正の説明に全員が深く納得する。
 「何時になったらあの女を無修正AV女優に堕として、世間や学生らの晒し者にして、我々に辞任を突き付けた報復が出来るでしょうか」
 学長はもう待てない。下から突き上げられ恥ずかしい会見をマスコミに叩き続けられた。上野愛菜らが大学の改革とマスコミで会見する姿が我慢ならない。
 「理事長。あんたもっと学生に騒がせて、それを理由に岩見沢に転勤命令出したらどうだ」
 平佐和が追い詰める提案をする。
 「・・・・」
 理事長は何とも言えない。
 「そのお膳立てにどうでしょう。ゼミでとことん責められた女子学生に自殺の未遂をやらせられないでしょうか」
 真紀子の提案である。
 「それは無理ですよ。上野講師にも反発していますが、大学側にも批判的です」
 理事長は悲観的である。
 「ならばそう成る用に持って行きましょう」
 「さて」
 「マスコミもいろいろあるわ。OBにでも金を掴ませたらしゃべるでしょう」
 真紀子には当てがある。
 「それは有り得ますね」
 「別に誰の実名も出なくてもその本人に羞恥の事実が暴露されれば追い詰めます。そこまで行かなくても学生の怒りを上野愛菜にもっと向けるように書けます」
 「それならば岩見沢に直ぐ合法的に転勤命令を出せるよ」
 段下警視正が念押しをする。
 「そうですね」
 理事長が更に深く納得する。
 
 これが調教師集団の芯の恐ろしさと言う結果が出た。
 フリーライターの小泉信二は極東経済大学民族学のゼミに参加していたOBをデータで一人ずつ確認した。
 確認は職業及び現在の収入他である。
 一人の女性を選んだ。仕事を掛け持ちしている。高校の教員だが非正規で何校かで授業を持っていた。
 収入はそんなに高くないと思われる。
 宮崎真澄。小泉信二はこの女の借り入れ情報を知りたいと真紀子に要求した。
 真紀子は杉本金融の担当者に確認して情報を渡す。
 町金だけで百八十五万。返済しては空いた枠を借りていた。
 小泉信二は宮崎真澄にコンタクトする。
 謝礼に五十万提示した。誰も実名は出さない条件である。
 宮崎真澄は話には乗ってきたが金額アップを要求した。
 交渉のすえ百万で合意と成る。
 小泉信二は即日記事を書いた。
 暴露的な記事を多く出す夕刊紙に間に合わせた。内容を見てマスコミも直ぐに騒ぎ出す。
 記事は『上野講師の送ったテープの内容を基に調査を進めて行く』と書き始められていた。
 山形県のその村にある寺は無人である。ゼミで使った時は全員で掃除を奉仕していた。
 本堂の下に隠れ部屋がある。
 江戸時代から密教系の儀式に使われていたらしい。
 其処でお仕置きが行われた。全部回れなかった女子学生二人がお仕置きになり縛られた。
 全裸にはしない。女の局部だけを出されて責められた。
 昔から変わらない内容で男性は女性から泣くまで手や口で何回も抜かれる。女性は失神するまで指や道具で責められた。
 強姦は無いと言っても恐ろしい内容である。
 失神には四時間から六時間掛かったらしい。その間参加していた全員に性器を隅々まで見られ指を入れられた。失神まで何度も逝き顔を晒したに違いない。
 上野講師に問い詰められて二部の学生が仕方無しに話した。現実も昔の話として報道された古いインターネットの書き込みのままである。
 二部の学生も出ていた。そうでないと単位が貰えない。
 宮崎真澄は責めに熱中していたから自分は教授がいたかどうかは見ていない。他のOBに確認して欲しいと答えた。
 今回の犠牲者は女子学生二人だけであった。
 
 自殺未遂は翌日直ぐ起きた。大学の屋上から飛び降りようとする。それを職員が見つけて間一髪止める。そのまま自殺未遂がマスコミ報道になった。
 もとより記事が出たらそう成ると予定して理事長側の職員が監視していたのである。
 遺書には『私が強姦されたように報じられていて堪えられない』と書かれていた。
 原因は上野愛菜講師の強引な調査との見解に行き着く。
 学生らは上野愛菜講師への非難を怒涛の如く書き込む。
 上野愛菜が聴取した二部の男子学生は上野講師のマスコミ謝罪会見をSNS上で要求した。
 講義をボイコットしていた学生らもそれに賛同する。上野講師のマスコミ謝罪が無い限りボイコットを続けるとSNSで書き込んでいた。それは一人ではない。
 更に自転車事故の問題まで書き込まれてしまった。
 マスコミもそれを報道内容に一部付け加える。
 理事長は上野愛菜に岩見沢キャンバスへ即時転勤命令を出した。
 上野愛菜はどうにも納得が行かない。何故こんな方向に進んでしまったのか。自分はセクハラ行為が有ったのに対処しない大学側を批判した筈である。
 納得は行かないがもうどうにも挽回はできない。
 上野愛菜は謝罪も大学への出勤もできなかった。
 そして宇佐美に御座敷を一回休ませて欲しいと連絡する。
 「あんた全て解っているよ。もう講師続けられないだろ。金返す気ないんじゃないか」
 「そんなことは」
 「AVで返しな。五本で終わりだよ」
 「はい」
 上野愛菜にもう抵抗は出来ない。返事してう。
 直ぐに宇佐美が真紀子を伴って上野愛菜の部屋を訪ねた。
 上野愛菜は事務所に来るか入って良いか迫られる。直ぐに支度して真紀子の事務所に向かった。
 宇佐美の営業什器類は高級だがあまり整ってない事務所。それとは大違いで社長室は銀座のクラブ並みである。
 大理石の床。歩く部分や応接ソファーの下などは靴が半分潜るくらい深い絨毯が敷かれていた。
 「宇佐美さん。借用証書高利になったりしてないよね」
 「無利息だ」
 宇佐美はきっぱり答える。上野愛菜も目の前で読んで確認されて書名捺印していた。
 「私が引き取る」
 「いいよ」
 「貴方の利益はお座敷三回分だけ」
 「判った」
 「いい。AV五本だと一本六百四十万。だけど貴方には一銭も残らない。それじゃこの先困るわね」
 今度は上野愛菜に向かって言う。
 「はい」
 上野愛菜はそんな事すら考えが及んでいない。辞表を出せば大学の収入はもう無い。兼任講師も続けられない。
 「AV五本は約束したわね」
 「はい」
 「私がこれを一本九百万で売る。お座敷の分百二十万は払ってあげる。三千二百万返して二千三百万は残るの」
 「はい」
 「まず住宅の問題。AVが終了するまでは今のままでいいわ。AVの方で寮にしてもらえるから。そのあとこの街を出て行くと厳しいわね」
 「え」
 上野愛菜には厳しいが生活費としか思い付かない。
 「分らない。AVに出てしまったらその辺のアパートなんかには住めないよ」
 「ああ。はい」
 そういわれて始めて恐ろしい実情が自分の中で組み合わされる。
 「この街に居れば誰も中傷したりしない。そういう人がたくさん住んでいる」
 「はい」
 「まずご自身の住居を確保しないと駄目なの。此処の上層階の中古でやや上層階では小さめの3DK。これが九百万。ここまでいい」
 「はい」
 「次にこの先の生活費が要るわね。お座敷のコンパニオンや風俗は貴女に長くは無理よ。分かる」
 「はい。分ります」
 上野愛菜はお座敷が無理と理解されることに寧ろ安堵する。
 「残り千四百万だけどもう一本出ない。そうすればいま賃貸で貸している中古が二つ。さっきの百二十万から百万足して何とか買える」
 「あ。はい。家賃収入が」
 「そう家賃収入が三十二万毎月入るよ」
 「はい。ありがとうございます」
 「AVが終わったら暫く落ち着いて。屋台村で店をやるか。インターネットでなにか始めるかじっくり考えて」
 「はい」
 「保険を掛けてなかった事故から貴女はもう表社会には生きられないの。これからは違う世界に生きる自覚だけは持ってください」
 「はい」
 「いい。私もやって来たの。AVもハードコンパニオンも」
 上野愛菜には驚愕の一言であった。
 「それと謝罪なんかしても無駄よ。このままAVが発表されたら大学の関係からは抽象されるけどネットだけ。そのまま総てが終わるよ」
 「え。どうして謝罪の件を」
 「いいか。ネットに書き込みが有るんだ。それにあんたを見張っている組織から逐一に一方的通知が来る」
 そこは宇佐美が説明する。その通りである。上野愛菜自身が書き込みだけで驚愕した。そして見張られていて完済しなければ逃げることもできないと理解する。
 
 上野愛菜はその日のうちに大学に辞表を出した。
 撮影は翌日から行われる。
 保木間が監督だと思っていたが違った。
 監督はもう少し若い男である。
 案の定恐れていたSM系AVだった。
 ストーリーなどまったく無い。全裸で十字架に磔にされる。片脚を十字架の横の柱に吊るされ股を開かれて男優の指、電マ、バイブで責めまくられた。
 後半は拷問椅子に移され縛られ磔にされる。
 尿道責め、電マ、潮そしてドリルバイブで責められた。
 何回逝き顔を晒したか解らない。
 終わって部屋に戻った。
 お座敷ほどには辛く無い。説明やスタッフのフォローがある。何をされるか判らない恐怖が無い。
 ようやく食事がまともに喉を通って行く。
 数日は安堵な日が続いた。
 報道はサッカーの中継に大方の時間が取られている。お蔭で極東経済大学関連の報道は鳴りを潜めた。
 一本目が公開される前に次の撮影が入る。
 野球拳を想定したゲームAVである。女性二人出演だが別々に撮影は行う。同じ曲で一枚ずつ脱いだ姿で踊る。
 脱ぐところも撮影する。ここが何度もNGになった。
 全裸ではまだ野球拳は終わらない。女の部分のオープンは当然行われる。小水を出し浣腸されて便も出す。剃毛も行われた。
 更に相手が全裸以上に躰に着いた物が全部無くなるまで続く。予め一方的に負ける前提で幾つかの罰ゲームが用意されている。
 吊るしで駿河問いにされた。蝋燭で躰中を真っ赤にされる。それでもお座敷のような辛さは無い。
 スパンキングで乳房を叩かれるのが少し痛いくらいである。
 剃毛が入ったので暫く休みかと思ったがそこは無毛のまま撮影に入った。
 戦国時代のくノ一が敵方に掴まって拷問され輪姦されるだけの内容である。たくさんの男優に中出しされるのがやや辛かった。
 ここまで坦々と三本を取り終えてしまう。
 覚悟していた中傷がSNSに出た。学生らは確り見ていたのである。
 『ありました。極東経済大学講師上野愛菜のAV。この顔間違いないです。』
 →『間違いないですね。大学辞めざるを得なくなって一挙にAV。何とも大胆です。これ大学への報復?』
 →『見ました。行き成り乳首もお○○この奥まで鮮明です』
 『これ絶対に上野愛菜講師です!社会派ぽい事ばかり言っていて行き成りAVですか!それも無修正です』
 →『確かに上野愛菜です。尿道から出るところまで鮮明でした』
 →『何かよっぽどの事情が有ったのかな。でもこうして見ると講師じゃなかったらいい女だよ』
 →『自転車で事故起こして川に人を落として殺したのです』
 『元極東経済大講師○○○○(上野愛菜)のAV見ました。乳首綺麗でした。鞭で叩かれて溜飲が下がります』
 →『もっと局部のピンクの部分まで叩いて欲しかったです。痛みにもんどり打つ姿みたいです』
 →『上野愛菜が潮吹いているところ最高!』
 →『へえ。本名が判ってしまうのですね。でもお○○こ綺麗です。無修正で子供産んでないの珍しい。ずっと集め続けたいです』
 途轍もない数で幾つものSNSに書き込みがなされていた。
 覚悟していても尋常でない衝撃である。ここまで言われるとは思ってなかった。
 いかに自分が学生に人気が無かったか。存分に思い知らされる。
 さすがに教職員の書き込みはなかった。
 
 上野愛菜はふらふらとマンションを出た。
 保木間に連れて行かれた屋台村に向かう。自然と同じ店に入ってしまう。
 「見たわよ」
 ママの方から話してきた。
 「何であんな物買うのですか」
 上野愛菜には驚きの極致である。
 「買わないわよ。サンプル」
 ママは笑っている。
 「サンプルがそんなにはっきり」
 「意外と肝の部分がサンプルに成っているのよ」
 「ええ。それじゃ下も見えるのですか」
 「そうよ。そうじゃないと売れないわよ」
 当然と言った言い方である。
 「でもね。あの内容じゃかなり行ける。あなたの躰は綺麗よ。次の契約ではアップして貰えると思う」
 「私、契約は六本なのです」
 「その分は仕方ないけど。その先よ」
 「ええーー。その先」
 「いまの内。稼げる時に稼いでおかないと。何時までも稼げないのよ。将来のこと考えておかないと」
 ママの言葉に悪気は無い。上野愛菜にはまだ割り切れないのである。
 そこに保木間が現れた。
 「上野さん。お躰の調子はどうですか」
 「大丈夫です。ただ講義の学生がたくさん書き込んで」
 上野愛菜はつい保木間に安堵して愚痴を漏らしてしまう。
 「大丈夫です。いま一時だけですよ。学生がそんなには買いません。サンプルを見て今だけ騒いでいるのです。一ヶ月もしないで静かになります」
 「本当ですか」
 「どんなケースでも何時までも書き込みは有りません。それに貴女はもう大学には戻らないでしょう」
 「戻れません」
 「辞表を出したのでしたらこの街に居れば何も心配は有りません」
 「そうですね」
 もう元には永久に戻れない。自分がショッキングなだけと自分に言い聞かせるしかない。
 「それより。この先ですが残り三本が終わったら一本二千万お支払いできます。続けて頂けませんか」
 ママの言う通りである。
 「それは凄い。保木間さんそんなに売れているの」
 「状況はいいです」
 「やった方がいいよ。今しか稼げない。私なんか三本しか貰えなかったからこの店が精一杯」
 そうだ。もう元には戻れない。先の収入をここで考えなくてはならない。
 「判りました。考えます」
 それでも即答は出来ない。
 「お待ちしています」
 保木間はそのまま席を立つ。強引に押す必要は無い。
 
 再び蓬莱の間である。
 極東経済大学理事長、学長、衆議院議員平佐和、段下警視正が集まっていた。
 上野愛菜のAVを大型モニターに上演する。
 お座敷の隠し取り録画ではない。画像は格段に鮮明である。上野愛菜が二度と講義の壇上に立てない姿がそこにあった。
 「本当にありがとうございます。やっと安心できます。ようやく溜飲を下げることができました」
 学長は座敷の畳に両手を付いて礼を述べる。
 「ありがとうございます」
 理事長も静かに礼を述べた。
 「既にダウンロード数は二千を越えています。無料サンプルのダウンロードは十三万件」
 「学生たちのSNSへの書き込み見ました」
 「学生は誰かがサンプル見て広げただけでしょうけどね。サンプルだけでも肝の部分は入っています」
 「サンプルだけで社会的にアウトですな」
 学長は満足である。
 「ダウンロードは過去最大で五十万件。サンプルはその百倍と見ていいです」
 真紀子は坦々ととてつもない数字を述べる。
 「ちょっとしたアーティストぐらいでは脚元にも及びませんな」
 学長は更に満悦する。
 
 上野愛菜は部屋に戻ってPCから販売サイトを確認する。自分のサンプルを発見する。それをダウンロードした。無料で簡単に取得できる。
 自分のノートPCより大きな画面で見るべきと気が付く。
 部屋を出てネットカフェを探す。
 サンプルなのに物凄く鮮明な画像である。
 自分の顔が唇の皺までくっきり見える。
 性器もはっきり映っていた。ドテの陰毛も鮮明に毛の癖まで見える。ピンクの部分を開いたシーンが画面一杯に拡大された。
 尿道の小さな亀裂も膣口の微妙な配列も色の変化も鮮明に映し出されている。ショッキング過ぎて何も考えられない。
 それだけではない。尿道の小さな亀裂から男優の指の責めで潮が飛び出すシーンもある。
 僅かなタイミングだけだが尿道口が一気に膨らむ状態まで鮮明に確認できた。
 膣の濡れも液が垂れるところまで鮮明である。
 自分の羞恥の総てがそこに凝縮されていた。
 あれだけの書き込みが起こる。確実に世間に無修正AV嬢として位置付けられてしまった。僅か一日である。
 自転車の保険の契約金額を調べた。一番安いネットの保険は月百七十円である。それでも事故保証は一億円まで詠っていた。
 これに入っていれば。親から相続した家も売らないで全額賠償できた。自分が油断したのがいけない。もうどうにも戻る事はできないと観念する。
 雑居ビル一階のスーパーで買い物をして帰る。テキーラを買った。今は酔う事しかできない。
 
 起きたのは翌日。中天に太陽が昇り部屋の中に強く光が差し込んでいた。
 昨夜酔いながら思ったことが蘇る。
 自分のこの上ない恥ずかしい姿が脳裏から離れない。
 男は何であんなところばかり見たがるのか。
 サンプルに成っている部分は本当に恥ずかしい。恥ずかしさの極みばかりである。そんなところがサンプルレベルで全部公開されてしまった。
 それでも自分のAVに金を出す人が居るのか。
 それでも買う人は買う。それでなければ商売は成り立たない。もう全て公開されてしまったようなものである。
 それが何本も売れるのか。それなら五本やって一億稼いだらどうか。
 もう元に戻らない。あと数年たったら今回保木間に提示されたような収入は得られないと思う。
 とことん自分を棄てて将来に安泰を確保するしかない。
 その時なんとなく真紀子に相談した方が良い気がした。
 保木間さんから提案があってこの先一本二千万出すと言われた事そ話す。それで五本追加して一億稼ぎたいと相談した。
 「駄目よ」
 真紀子から意外な回答が返ってきた。
 「五本は駄目ですか」
 「駄目じゃないよ。でもいまそう言ってしまったら全部二千万ね。一本しか受けないのよ。次に値を上げて来るのを待つのよ」
 「はい」
 真紀子に相談して良かった。
 「AVはたくさん出して逆に前のも売れるのよ。だからその分は値段を上げてもらわないとね」
 「そうですか。ありがとう御座います」
 辛い絶望の中で明るい部分が出て来た。せめて金だけでも得たい。
 数日後に保木間から三枚の権利書を受け取りミッドタウン11号棟に移った。
 高層階のロケーションは素晴らしい。浴室もガラス張りで綺麗である。
 上野愛菜はその後も合計二十本のAVに出演して三億を超える蓄えを得た。
 完璧な無修正AV嬢である。

 大学講師のフェミニストが堕ちる 完


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